【連載】ネナベの田辺さん(8) 


以前も話したけどお友達の佐奈ちゃんは一度こうだと決めると止まらない。
その性格が仇になった感がある今日この頃。日に日に佐奈ちゃんが壊れていくのが
目に取って見える。一にBL、二にBL。最近では独自のカプ論を展開し始めて
もうそろそろ手に負えなくなってきている。

「田辺ー!やんスタ!超面白いね!!」

ある日、講義が終わって別の教室に向かおうと席を立ったその時、後ろから大声で
叫ぶ声がした。佐奈ちゃんだ。

振り返りたくないので他人のふりをして教室を出たところで佐奈ちゃんに止められる。

「なんで逃げんのさ!」
「・・さ、佐奈ちゃん・・声大きいよ」
「いいじゃん、それよりさ!やんスタ超面白い!私が好きなのはね・・」

佐奈ちゃんの世界観を私が少しだけ広げちゃった為か、その勢いたるやすさまじい。
私がやっているアイドル育成ゲームを紹介したらもうこれだ。

「でもね、私はさぁ、○○と××がくっつくべきだと思うの」
「そ、そうだよね。私もそのカプは好きだよ」
「田辺、なんかノリ悪いね!なんだよー」
「いやあ、佐奈ちゃんがここまで目覚めるだなんて予想しなかったから」
「田辺」

私の手を取って目を見つめる佐奈ちゃん。その瞳は、すごく残念。

「ありがとうね!私の世界を広げてくれて!」

佐奈ちゃんの大きな声が廊下中に響き渡る。
あの二人、大丈夫かという怪しい目線があちらこちらから突き刺さっているのを
実感しています。ありがとうございます、大丈夫じゃありません。

「だから!佐奈ちゃん声が大きい!」

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「田辺、それで例のにゃごろうさんとは今度いつ会うの?」
「あー、うんまだ決めていないの。今度twitterで誘ってみようかな」
「あれ?LINEの連絡先とか交換してないの?」
「うん、交換はしてるけどLINEはなんか恥ずかしいじゃない?twitterで知り合ってからさ」
「何それ、変なの。田辺ってやっぱり色々変」

今の佐奈ちゃんもね。

にゃごろうさんとネットでやり取りをするのはあくまでもtwitter。
私はtwitterっていう狭い箱の中で初めてバカになれる。
その箱の外に出た途端に私はtwitter上のバカな私じゃなくなる。
一方で佐奈ちゃんの「変なの」って言葉はすごくわかる。端からみたらそれは変だろう。
そもそも私みたいにもう一人の私を演じる事がないのだからきっとこの感覚はわからなくても無理はないのだ。

「田辺、今からにゃごろうさんに何かコンタクトしてみたら?」
「え、今から?」
「うん、直近のつぶやきみせてよ、にゃごろうさんの。それにまずは返してみて」
「うーん・・」

・・・

「・・佐奈ちゃん、出来れば見ないで?」
「え、なんで」
「何でって、前も言ったけど恥ずかしいんだよ。変なのばっかりつぶやいてるから」
「何をいまさら。それに私はもう田辺と同じ類の人間だよ?何が恥ずかしいの?」
「あー、うんわかったよ。見てていいよ」
「わかればいいんだよ」

・・・

「あった、にゃごろうさんつぶやいてる」
「なんてつぶやいてるの?」
「えっと、『ショタは最高www』・・だって」
「へ、へー・・。田辺、これに何か返してみて」
「・・・」

適当にリプライする私。他人にリプライを打つところを見られる事って
人生でもそうそうないんじゃないか。

「『ぶひwwわかるwww』って、田辺、今真顔だったよね。真顔でこんな事書いたの?」
「・・・」
「・・・・ぷ、あははははは!田辺、超面白い!!おかしすぎる!!」

死にたい。

顔あたりが火照ってみじめな気分になってた所、にゃごろうさんからのリプが飛んできた。

「『たべっちは本当に変態だよね』だって、間違ってないじゃん」
「うるさいな」

私はにゃごろうさんと実際に会った。
このつぶやきの向こうにいる人がどんな人かも知っている。
あんな綺麗な人とこんな変な会話を交わしているのかと思うと
何だか不思議な気持ちになってくる。

・・・・

「『にゃごろうさんほどじゃないよ』と」
「ねえねえ、そろそろ切り出そうよ。今度また遊びましょうよって」
「うん、そうだね。じゃあ・・・」

『にゃごろうさん、そんなことよりまた遊ぼうよ。今月空いてる日ある?』

また会いたい、またお話ししたい。
変なやり取りの中に少し混ぜた純粋な気持ち。
その気持ちはなんていうか、今まであんまり味わったことの無い
もどかしい、形容しづらい何か。

「あ」

『いいよ、来週と再来週の土曜日なら空けるよ』

「だって、よかったねぇ田辺」
「う、うん・・」
「何もじもじしてるの?こんな変な事つぶやいてるくせに」
「・・うるさいな」
「ちゃんと言っておいてね、友達も連れて行きますって」
「うん」

またにゃごろうさんと会える。
ただそのことだけが嬉しくて、
私の頬は引力に逆らって宙に浮くのだ。

(続)

 

 

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