【連載】ネナベの田辺さん 第13話 「修羅場」


あぁ、そうだ。こういうシーン、お昼過ぎのテレビでよく流れている。修羅場っていうアレ。
そういえばうちのお母さん、家事を終えた後にリビングでぼうっと眺めていた。

そんな私はリアルで、目の前で、再放送とかそんなのじゃないライブで起きている光景を
ぼうっと眺めていた。というか、怖くて、動けない。

恵梨香と呼ばれた女の子はベンチから立ち上がるやいなや、みっきーの左頬を小さい手で
殴り飛ばした。いくらか弱い女子の一撃とはいえあまりにも急な出来事にみっきーは膝から
崩れ落ちる。その女の子のまなざしは崩れ落ちるみっきーから、私に向けられた。

「で、あんた誰?私みさきの彼女なんだけど」
「え、え・・」

恵梨香と呼ばれた女の子は「みさき」の彼女だという。みさき?みっきーの事だろうか。
というかゲイだとカミングアウトしたみっきーには普通に彼女がいたのか。
と、みっきーが立ち上がり私と恵梨香という女の子の間に割って入る。

「待って、待って、ははは。たべちんごめんね、驚いたでしょ?」
「いや・・!というかあの、私twitterの友達で、その、誤解です!」
「誤解!?ふざけんな!あんた、よくもまあ彼女のいる男と二人で仲良くできるね!」
「恵梨香落ち着け!お前、何言ってるんだ!この人とは今日会ったばかりで・・」
「うるさい!」

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彼女は止まらない、今度はみっきーの股間を思い切り蹴り上げる。鈍い音がした後、
みっきーはディズニーアニメのようなリアクションを彷彿とさせるようなジャンプを見せて
のたうち回った。

「みさきはね、私の大事な彼氏なんだから。取ったりしたら許さないから」
「あの、えっと・・・」

彼氏の股間を蹴るほど大事?哲学?なんだかよく分からなくなってきた。

テレビで何度も目にした修羅場。だけどいざ自分が登場人物になった途端、思うように立ち居ふるまう事が出来ない。そもそもこのままだとあらぬ誤解を受けたまま悪者にされてしまう。
思考が止まりやがて涙目になる私。

「・・・・恵梨香ちょっと!落ち着きなよ!」

彼女の友達が止めに入ってくれた。友達も恵梨香の行動に唖然としてしばらくフリーズしていたのだったがようやく我に返ったようだ。

「あんた、名前は?」
「え、私?た、田辺です・・」
「ふーん、どこの学校?」
「え、えっと」
「早く言えよ!」
「あ、あの!お紅茶女子・・です」
「なんだ、年上かよ。で、みさきを狙ってるの?」
「だから、あの、twitterの友達なんです。今日会うのが初めてで」
「嘘つけよ!みさきはtwitterなんかやってねえよ!」
「え?」

みっきーを見る。すると彼は股間を抑えながら小さく首を振り無言で何かを訴える。
やめろ、それ以上話さないでと言わんばかりの表情。
え、じゃあ私はどうすればいいの・・。

「と、とにかく!私はみっきーを狙ってたりはしてないです!」
「ふざけんなよ!」
「ふざけてなんかない!!!」

・・・

場が静かになった。みっきーも、恵梨香も、その友達も。
数十秒くらい沈黙が続いた後、恵梨香はみっきーの手を取って私に言った。

「・・・とにかく、もうこれ以上近づかないでよね」
「・・・」

みっきーは恵梨香達と一緒に立ち去った。
残されたのは甘いお菓子の香りと私だけ。

(続)

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