【連載】ネガティブ村井さん 第5話


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ミーティングはその後熱を増し、聞き手である私の事業部の人たちが積極的に篠本さんに
意見をぶつけた。考えは確かに素晴らしいがそれに応えるだけの品質は維持できるのか、篠本さんは会社から言われてやっているだけで事業部自体を改変したいが為の体のいいこじつけじゃないか、もし失敗した際の対応がどうするのか、等。

現状維持は後退だとどこかの偉い人が言ってた、だけどそんな事を言われても慣れた日常を
かき乱されるのは正直私は嫌だ。意識が低いとかいろいろ言われても嫌なものは嫌だ。
でも一方で篠本さんがあんなに熱心に問いかけている事にちゃんと向き合わないで無碍に扱うのもなんだかためらってしまう。

と、ミーティングの時間も終わりに近づいたのか篠本さんが時計を気にし始めた。

「もう少しみなさんと議論していたいのですが」

と口にした篠本さんは手元のPCを操作して続ける。

「今日はお時間の様です。また様子を見てこの件については皆さんにご報告いたします。
で、ひとつ皆さんにご案内です。この新サービスの立ち上げに関しては私だけでは
どうしても視点が偏ってしまいがちになります。そこで、皆さんの中で私のアドバイザーとしてお手伝いいただける方を募集させていただきます。そもそも会社に認可を得る前に、ここにいる皆さんにご賛同を頂かないとこのサービス立ち上げはありえないと考えていますので」

篠本さんが私を見る。

「何卒、ご助力頂けますようよろしくおねがいします」

そう篠本さんがお辞儀をすると自然と拍手が起こった。少なくとも篠本さんには誠意がある、ちゃんと私たちの目線で先を考えてくれている、そう皆が思ったからだと思う。

「村井さん!」

ミーティング終了後、人もまばらになった部屋に私はまだ座っていた。
プレゼンの機材を片付け終えた篠本さんが声をかけてくれた。

「今日はありがとうございました、あと、突然話を振っちゃったりしてすみません。
おどろいちゃいましたよね」
「あ、いえ!」

驚いたけど私にかまってくれるのはとてもうれしいので問題ない。

「それで、その、村井さんにお願いがあるんですが・・」
「あ、はい」
「木村部長からもお話があったと思うんですが、このサービス立ち上げに関して
お手伝いを頂きたいんです。もちろん、村井さんもお仕事が忙しいと思うので
負荷がかからないように私の方も努めます」
「あ、はい・・・その、少し考えてもいいですか?」
「もちろんです、突然こんな話をしてしまって混乱しちゃいますよね」
「あ、いえ、そんな」
「実際にどういう事をお願いするのか、簡単な概要はあとでメールしておきますので
お手すきの際に見てください」
「わかりました、よろしくお願いします」
「こちらこそ!」

「おおい、篠本、いくぞ」

上司に呼ばれて立ち去る篠本さん。それにしても篠本さんは背中も格好いい。
はぁ、眼福・・。

自席につくと電話メモがたくさん置いてあった。はぁ、ちょっと席を外しておくとこれだ。
電話メモは全部で5つ。その中で面倒そうなのは、あった。井内案件だ。
とりあえず面倒な事、大嫌いな事は真っ先に片づけよう。じゃないと後々の仕事に影響が
出ちゃうから。ファッキン井内。

「・・・おい」
「・・・え?」
「声に出てんぞお前」
「・・・・」
「やるなぁお前。おもしろいよ」
しまった、最近私は仕事中に思考がダダ漏れになる事が多々ある。

「すすすす、すみません!違うんです!!」
「何がだよ。おれの事が嫌いなのはいいが仕事はちゃんとしてくれ」
「井内さん怖いんですもん、いやになるのも仕方ないじゃないですか」
「ああ?」
「ごご、ごめんなさい!」
「はぁ・・まあいいや、お願いが一つあるんだよ。お前、七里ガ浜システムさんの見積もり
作ってたりしてるよな?」
「しちり・・ああ、はい。もしかしてミスってましたか?」
「いや、そんな事は無いんだけど。お前、この見積もり作成の時になんか頼まれたりしたか?
担当営業に」
「・・・いや別に?何でですか?」
「いや、だったらいいんだよ」

井内さんは会社の購買統括部という部署に所属している。購買統括ではうちの会社と他社との
事業活動のとりまとめ(契約やら仕入れやら)を行っており定期的に見積書などをチェックしている。細かい性格の井内さんにはもってこいの部署だ。

「村井、お前はちゃんと意志をもって仕事してるか?」
「え、どういう意味ですか」
「ただ人から頼まれたことをうのみにしてねえかってことだよ」
「・・・してないですけど」
「だったらいいんだよ、ちゃんと依頼者の真意をちゃんと汲んでから仕事をしろ。じゃあな」

電話は切れた。一方的に切るなよあの野郎・・。

「どうした村井、井内さんと電話か?」
「そうですよ、あの人何とかしてくださいよ木村さん」

木村部長は井内さんの元部下だった頃があってそれなりに仲もいい。

「まあそういうな。あの人は会社の事を思ってついつい厳しい口調になりがちだがな、
根はいい人だ」
「だからって、あんなつっけんどんな人、苦手です」

それにしても井内さんが私に言った言葉が気になる。七里ガ浜システムさん案件で
最近何か頼まれた事はなかったか、人の依頼をうのみにしてないか、どういうことだ?
井内さんから聞いた話はその日ずっと心に残ったままだった。

(続)

 

 

 

 

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