【連載】ネガティブ村井さん 第4話


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今日はいいことがありそう、今日はよくないことが起きそう。
こういう感じで毎日の気分の振れ幅が大きくなればなるほど私の場合は疲れる。
なので私はいつもこう思うようにしている、はいはい今日もやなことだらけの一日ですよと。

「今日、14時からミーティングがあるんだけど村井も出てくれないか」
上司で部長の木村さんはお昼前に私の席にやってきてそう告げた。

「ええ・・・何の、ミーティングですか?」
「ああ、うちの事業部も社内向けだけじゃなくて社外向けのサービスを展開しようという
考えがあるんだよ。事務方の村井にも出てもらって色々と意見を述べて欲しい」
「・・・わかりました」
「めんどうくさそうな顔をするな。・・まあ気楽に考えろ、かしこまらなくていい」

そういわれると私は身構える、畏まる、緊張する。大抵こんな事を言っておきながら他人は
大そう重大な意見を求めてきたりするものだ。それにしても、社外向けサービスって、え、じゃあ営業をかけるって事なの?誰が?まさか私はしなくていいよね?もしそんな事になったら、死ぬ。


「それではお手元の資料と前方の画面を照らし合わせながらお話を進めさせていただきます」

私は今感動している。このミーティングの司会があの篠本さんだったのだ。合法的に私は篠本さんだけを見つめることができる。やるじゃん木村部長、ほめてあげよう、グッジョブ。
それにしても篠本さんがどうして司会を務めているのか、それはすぐ明らかになった。

「日ごろは皆様のおかげで社内の事務作業は円滑に進んでいます。
私ももちろんその恩恵に預かっている身として、またいち営業として御礼を申し上げます」

篠本さんの素敵な声がミーティング会場に響く。ああ、恍惚。

「私としては、そうした皆さんのスキルをぜひ社外展開させていただきたいと考えています。
つまり、外販化です。この計画が実現する際は私は発起人なので責任をもって全力で
営業活動をかけさせていただきます」

私たちの事業部は基本社内向けの事務作業代行を行っている。その経験を社外に展開しようというのが篠本さんの提案だ。ってことはもしかして、この案が実現すれば篠本さんと同じ部の人間になれる?

「とはいえ、まずは皆さんのご意見もお聞かせいただきたいのです。本日お集まりいただいたのはそうした理由です」

篠本さんの横にいた篠本さんの上司の二階さんが一呼吸を置いて話す。

「篠本の案は皆さんのお力をさらに活用させていただきたいと、そう願うものです。
この案が実現すればうちの会社にもたらされる利益もかなりのものとなります」
「・・・それは素晴らしい事ですが」

隣に座っている木村さんがここで口を挟む。

「どうでしょうか、そもそも我々もこのような話を聞いて間もない。ましてや一般社員は
今日初めて聞いたというものもたくさんいます。少し性急なのでは?」

確かに、冷静に考えるとこれは軽い話じゃない。そもそも事業部編成に大きな影響も出てくる。というか、これまでのお仕事がガラッと変わっちゃうのか?色々と不安になってきた。
会場が少しざわつく中、篠本さんが発言をする。

「確かに、おっしゃるとおりかもしれません。もちろん、明日明後日にという話ではありません。実際、すぐにこうした社外サービスを始めることは困難です。何層もの社内決済を経る必要がありますので早くても一年ないし二年後という話です。ただ、まずは皆さんの率直なご意見を聞かせていただきたいのです」
「・・そういう事であれば、私たちは喜んで意見をさせていただきますよ」
「ありがとうございます、木村部長」

この木村さんと篠本さんのやり取りはきっと打ち合わせ済みなんだろう。
だって木村さん、なんかわざとらしかったし。
と、篠本さんは私をチラりとみた。え、がっつり私を見ている・・!!

「私は営業活動をしている中で、大量の事務手続きを並行して行わないといけません。
ですが、そんな私の事務手続きを代わりに迅速かつ丁寧に行ってくださっているのがそちらに座ってらっしゃる村井さんです」
「あ、いえ、その・・」
「村井さんは私の時間を産み出してくれています。あなたがいるからわたしは色んな提案活動に注力出来ています。この場をお借りして、ありがとう」
「あああ、いやぁ、その、そんなぁ」

今の私はかなりキモい顔をしていると思う。

「村井さんのような人材がたくさんいらっしゃるこの事業部のスキルを社外展開すると
かなりの利益を見込めると思います。そもそも顧客のいわば時間を産み出すのが皆さんの
業務の本質だと思っています、つまり・・・・・」

篠本さんはそういうとこの計画についての必要性、妥当性等の説明を始めた。
周りに座っている人たちはペンを片手に熱心に篠本さんの話を聞いている。

「村井」
木村部長がつぶやく。
「お前に篠本からご指名が来てるんだよ。この社外展開サービス実現に関するプロジェクトに
参画してほしいって。お前は、どうなんだ、やってみたいか?」
「さ、さんかく・・?え?」
「当然今の仕事をやりつつって話だから少し忙しくなるだろうけどな」
「ええ・・それは嫌です」
「はぁ・・・お前な」
「あ、でも、考えさせてください」
「そうか?まあウチとしてはお前がやる気なら問題ないよって篠本には伝えてあるから。
あとはお前次第って訳だ。明後日くらいまでには決めておいてくれ」

面倒なことは嫌い、でも篠本さんと一緒にいる時間が増えるなら・・・
これはやってみてもいいんじゃないか?

(続)

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