【連載】ネナベの田辺さん 第11話


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「きれいな名前だね」
「どこかのお嬢さんみたい」
私の名前を初めて聞いた人の多くはそう感想を漏らす。
名前がきれいだろうけど私自身はきれいなキャラでもお嬢さんでもない。

「どうして私の名前ってすみれなの?」
小学校の時にお母さんに聞いた事がある。
夕飯を作りながら響きが可愛らしいからだよと返したお母さん。
それを聞いてああ、特に深い意味はないんだと子供ながらに悟った。
それと同時に、ある種の解放感も感じた。だって、特に深い意味も無いんだから
色々好き勝手出来るじゃないかというような、子どもながらの無邪気な答え。

物事を知らないうち、というか子どもは何事も怖いもの知らずの傾向がある。
だけど歳を重ねていくごとに一つずつ何かを知る。そして一つずつ何かの恐怖に縛られる。
そうやって少しずつ自分の世界も小さくなっていく。私もその例に漏れない。

小学校を卒業したあたりから子どもながらに色んな恐れを知って、
その頃から私の中身は今現在の私と大体変わっていない。

「田辺すみれさん」
「ねえ、すみれ」
「すみれ、おはよう」
すみれという名前を呼ばれた経験は静かに私の頭の中に降り積もっていく。
積もる「すみれ」は重さを増し、中学の頃あたりから私の中で一種の重荷になった。

「何ですみれって名前なの?」
中学3年の頃、私にそう聞いた友達がいた。
親が響きがかわいいからつけたと聞いたと友達に理由を答える。
そうなんだと返す友達。
ただ、それだけ。

ふと思った。友達はただ素朴な質問として私に問うたのか。
いや、素朴な質問なのか?
本当は悪意のこもった問いかけだったかもしれない。
田辺さんって、すみれって感じじゃないよねと。
名前一つでいちいちこんなことを考える私は本当に滑稽。

「すみれって感じしないよな」
高校時代、クラスメイトの男子に言われた言葉。
彼曰く、すみれと聞くと銀幕のスターの様なのにとの事。そんな事を言われても私は困る。
身長も150cmのラインを前後してガリガリで。かっこよさだとか煌びやかな一面は皆無。
そもそもすみれなんて、そのあたりの道端に咲いてるじゃないか。私の場合はそれだ。
誰に邪魔するわけでもなく、邪魔されるわけでもなく無難に咲くだけ。
どう?詩人でしょ。

女子大に入学した私はそれなりに大人になったのか、すみれという名前で苦しむことは
無くなった。かわいい名前だねと言われたら素直にありがとうと喜ぶこともできる。
でも、そんな上っ面の田辺すみれだけはどうしても好きになれない。

一方で「たべ」は本音を吐き出しているという意味ではある種、私に近いアカウント。
でも、「たべ」は男としている時点ですべてが嘘。
せっかく本音でつぶやいても設定が存在している時点で嘘くさい。
でもその嘘で楽しい思いを出来ているからまあいいやと思っちゃう私。
そして少しずつ積もっていくもやもやした何か、そうだ、罪悪感だ。
こんな風にらしくなく深く自分の事を考えていた今日この頃、ひとつの連絡が入った。
その罪悪感は虫の知らせだった、

「たべさん、今度一緒にご飯を食べてくれませんか?」
知り合いになってから大体1年くらいたつフォロワーのみっきーさんからDMが届く。
みっきーさんは女の子。そんな彼女は私が女と知らずに話しかけている。
・・困ったことになった。どうするか、どうする。詰んだんじゃないか私。

断ればいいという話でもない。彼女とはいつか会えたらいいねだなんて社交辞令を交わしていたけど、彼女からしたら社交辞令じゃなかったって事だ。これで断ったりでもしたら・・。

一方で実際にあう事はしないようにしているという言い訳もできない。
何故ならにゃごろうさんと実際に会ったことをつぶやいてしまったからだ。
うかつ・・。

いいですよと返信するととんとん拍子に日取りが決まっていく。
みっきーさんは待ち合わせ場所を自由が丘に指定してきた。
あ、はい、いいですよ。
私には何も発言権はないんだし。

私は実際に会ってみっきーさんに謝ることにした。
すみません、私は、女ですと。

(続)

 

 

 

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