【連載】ネナベの田辺さん 第9話



にゃごろうさんとは来週の土曜日に会う事になった。
「楽しみにしてるね」というにゃごろうさんのその短い一言で私の頬は上を向く。
上を向きすぎてはたから見ると確実に痴女そのものだろうね、えへ。
というかこんな小さなことで幸せを感じることができるのだから私のチョロさはすさまじい。
でもそんな自分は嫌いじゃない。

なんて思っちゃったりしてる所、「そういえば!」という佐奈ちゃんの言葉で私は我に返る。

「にゃごろうさんの本名ってなんていうの?」
「・・・えっと、知らない」
「はあ!?」

その、おバカさんを詰るような口調はやめてほしい。

「何で聞かないの!?」
「いやぁ、だってにゃごろうさんはにゃごろうさんだし・・・」
「田辺さぁ」

溜息をつく佐奈ちゃん。いよいよ私の心は傷つき始めた。もうやめて。

「普通本名聞くでしょ?あんたそこまでネット第一思考だとは思わなかった」
「なにそれ、初めて聞いた」
「私の造語だもん。リアルそっちのけでネットこそ本当の自分だーって思ってる人」
「あぁ、間違ってないけど」
「とにかく、今度会うときは聞こうね」
「なんで」
「なんでって、この前も言ったけど私はまだにゃごろうさんの事信用してないから。
どんな人か知りたいじゃない?」
「でも、にゃごろうさんはにゃごろうさんだよ」
「いやそうじゃなくて」
「あ、ううん。佐奈ちゃんの言いたい事もわかるの。でもね。あくまでも私は
twitter上でいつも仲良くしてくれているにゃごろうさんに会いに行くの。それでいいの」

首を45度かしげて私を見つめる佐奈ちゃん。私もかしげてみる。

「・・まいっか。じゃあtwitterで田辺はたべって名前なんだよね。私も当日はそれで呼ぶね」
「ありがとう。うまく言えないけどにゃごろうさんと会うときは「たべ」でいたいの」
「ふーん。私もtwitter始めちゃおうかな」
「え」
「え」

マジか。

「だって、私だけ佐奈ですって本名名乗るのもおかしくない?」
「いや、まあそこは佐奈ですでもいいんじゃないかな」
「よくないよ」

よくなくないよ。

「私も始める。twitter。で、twitter上の名前も決めるから。今日中にアカウントを取って
たべをフォローするからアカウントを教えて?」
「あ、うん。じゃあいいけど。ちなみにどんな設定なの?」
「設定?」
「あ、私もにゃごろうさんも「男」って事にしてるの。そういう意味で・・設定?」
「あー。私は普通に女として通すよ」
「そっか」
「まああとはホモ好きでカプ妄想大好き!って設定」
「わあ、あっという間に普通じゃなくなったね」
「名前は、どうしようかなぁ」
「適当でいいよ、適当で。私なんか田辺だから「たべ」にしてるくらいだし」
「適当、ねえ。ま、考えておく」
「うん」

その日の夜、お風呂上りにスマホを見ると新しくフォローをしてくれた人がいるという
通知が来ていた。名前は・・・・。

「佐奈ちゃん、適当でいいって言ったけどこれ私の名前だよね」
「そうだよ。田辺の名前。いいよね?適当でOKっていったのあんただし」

通知を見るや否や、私は佐奈ちゃんに電話を掛けた。なんていうか、とりあえず
問い詰めたくて。

「だからって、私の名前を使われるのって気分悪い」
「田辺、結構辛らつだね。そんなにいや?」
「いや」
「なんで」
「だって、その名前を使ってホモがどうとかって延々と呟くんだよね。いやすぎる」
「ああ」
「ああじゃないよ」
「うーん、じゃあこうしよう。少し名前をいじって「すみれっち」。これは?」
「私の名前から離れてよ」
「えー面倒くさいな。いいじゃんすみれっちで」

何度でもいう。佐奈ちゃんは一度こうだと決めたらもう曲げることは無い。
この後半時間程佐奈ちゃんに抗議をしたものの、改名案は受け入れてくれなかった。
こうしてホモ大好きアカウント、「すみれっち」は爆誕(笑)したのだ。
電話を終えた後、私はすみれっちをスパムアカウントとして公式に報告を出しておいた。

 

(続)

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