【連載】ネガティブ村井さん(1)


「それで、発注の番号の件だけど」

私は酷くネガティブだ。
都内にある卸売商社の事務をして2年目になる私はその事にようやく気が付いた。

「村井さん!聞いてる!?」
「あ、はい!すみません。じゃあ見積もり番号を変更しておけばいいですよね」
「ああ、そうそう。頼むよー、ほんとに」

ほんとに?

私は人の言葉にものすごく敏感だ。例えばこのケース。
最後に会社の人が言った「ほんとに」に込められた意味は
ほんとに(使えないなぁこの子・・)って事じゃないかって勝手に思ったりする。

溜息を三度つく。で、今朝コンビニで買ってきたお茶を飲む。
嫌なことがあったら行う私のルーティーン。

体形はガリガリの部類だけどいつもきまって飲むのは特保のお茶だ。
カテキンがどうとか書いてるこのお茶を飲むとなぜか落ち着く。
特保のお茶を体に流し込んで深呼吸をする。

よし、心が落ち着いた・・。

「村井さん?」

呼ばれた。
私の名前がした。しかも素敵な声で、
声の方向に急いで振り返る。

「は、はい!!!!」
「あはは、村井さん元気だね。これ、お願いできるかな」

そう返してくれたのはいつも優しい営業2課の篠本さんだ!

篠本さんはとてもできる。何ができるかというと、とにかく営業成績上位にいつもいる。
難しいことはよくわからないけど彼が好成績をキープしているのはこの人柄によるものだろう。

「村井さん、保守契約の見積もりを作ってほしいんだ。昨年の見積もりをベースに
作ってくれたらいいから」
「あ、はい・・。あの、えっと、いつまでに作っておけばいいですか?」
「そうだね、村井さんも忙しいだろうしあさっての17時頃までにあればうれしいね」
「わかりました!私、がんばります!」
「あはは、がんばって。あ、これ」

篠本さんは何かを私のデスクに置いた。チロルチョコだ!

「疲れた時に糖分補給してね、じゃあ」

颯爽と立ち去る篠本さん。なんてかっこいいんだあの人は。あんな人の彼女になったら
どれだけ幸せなんだろう。明後日の17時までにっていってたけど頑張って今日中に終わらせちゃおう。
それで篠本さんに褒められるんだ。

よし!

と、篠本さんに言われた見積もり作成に取り掛かろうとしたら電話が鳴った。
着信通知を見た。内線番号9002とある。

・・・・でたー、井内だ。私の大嫌いな。

これ、放置してもいいのかな。あ、でもだめだ。周りが私を見てるもの。
私はいやいやながらも電話に出た。

「・・はい、村井です」
「村井さん?井内だけど!?あの件、どうなってるの!?」

どうなってるの!でた、大嫌いワード。どうなってるのって言われても、まだ対応できていないんですけど。
それを言われるとやる気なくなるから言わないでほしい。

「村井さん聞いてる!??」

ひい、そんな大きな声で追い詰めないで。
私は声をしぼりだしてまだ井内さんの件の対応はできていない事を伝えた。

「はああああ・・・」

た、溜息!

なんなのこの人は、なんでそんなにいじめるの!?
そりゃ対応の遅い私がどうこういう話じゃないですけど。
とりあえず私は受話器を置いた。

・・・・あ、しまった。電話切っちゃった。

当然のことながら再び鳴る電話。

「あああ、あの、すいません!電話切っちゃいました!」
「いい度胸してんなぁ!?俺の事なめてる!?」
「な、なめてないですけど怖いからつい」
「俺が怖い!??」
「こ、怖いです!!」

この後さんざん怒られた。気が付くと1時間も。
長い間受話器を持ってたせいか腕がしびれてる。
ああ、なんて無駄な時間を過ごしたんだろう。

どうしよう、井内の件を先にするべきかそれとも・・・。

悩む私はチロルチョコを口に放り込んだ。
おいしい。。

決めた。井内の件は後回しだ。

 

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