【連載】かまとくら(1)


部活が終わって画材を片付けているとあまり絡みのない倉田先輩が
突然近くの喫茶店に行こうと誘ってくれたんだけど、急に言われて
びっくりしちゃってつい断ってしまった。

その晩、部活の友達からLINEが入る。

「みっちー、倉田先輩になにかした?なんだかへこんでたよ?」

なにかしたといえば、先輩の誘いを断ったくらいだ。

「何かっていうか、先輩から喫茶店に行こうって言われたけど断ったんだ」
「えー!マジ?」
「うん、だって急に言われてびっくりしたんだもん」
「あー、そういう事かぁ。なんかね、みっちーと色々話したかったのにって先輩言ってた」
「先輩が?」
「うん」
「そうなんだ」
「みっちー、先輩にメッセージ送っておきなよ」
「え、なんで」
「なんでって。一言入れておくべきなのこういう時は。また誘ってくださいって」
「うーん」
「うーんじゃない」
「(スタンプ)」
「スタンプでごまかすな」
「わかったよー、厳しいなあ」
「あのね、みっちーの事を思って言ってんだからね!」
「はい、すみません・・」
「じゃあ、ちゃんとメッセージ入れておくんだよ?」
「わかった」

困った。というか倉田先輩にLINEなんか送ったことない。そりゃ、連絡網で
お互いの連絡先は知ってるけどさ。でもこういうので入手したアドレスって使わないよね。
はぁ・・。メッセージを送っておくか・・。

「倉田先輩、今日はごめんなさい。もしよかったら今度の日曜にお茶しませんか?」

30分かけて考えた文章がこれだ。いっその事お茶しませんかとか言っちゃったけど
まぁ、いいんじゃないだろうか。と、すぐに先輩の既読表示が付くやいなや返信が返ってきた。

「いいよ。いこう。どこにいきたい?」

おお、倉田先輩と会話してる。部活でも会話したことないのに。
どこ、どこにいきたいのかな私。ああ、それじゃあ

「それじゃあ欧林洞なんてどうですか?」
「ああ!いいね、じゃあ日曜の14時位に現地集合ね」

わあ、本当に倉田先輩とお茶しちゃうんだ。というか二人でって結構緊張する。

時間に対して極めてきちんとしている私は1時間前には鎌倉駅に着いていた。
駅前からゆっくりと歩いて小町通りを抜けて北鎌倉方面にあるくと欧風の喫茶店
欧林洞は姿を現す。時間を見る、13時30分。よし、30分前に着いた。

と。

倉田先輩の姿が見えた。もう来ていた。なんで??

「あ、こっちこっちー!」
「の、先輩早いですね。すみませんお待たせしちゃって」
「ううん、私北鎌倉から歩いて来たんだけど意外に早くついちゃった」
「わー、そうなんですね」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「と、とりあえず中に入ろうっか?」
「あ、はい!」

会話がない。びっくりするくらいに。
私は基本的にあまり話が上手ではなく、自分から場を盛り上げるようなスキルなんか
持ち合わせてはいない。
一方倉田先輩も、はたから見ていたら私と同じようなタイプだ。むしろかなり静か。
淡々と自分のパートをこなすような仕事人といったイメージ。

コーヒーに入れた角砂糖をかき混ぜながら話題を探す二人。

「そういえば」

先輩が口火を切ってくれた。

「この間はごめんね、急にお茶しようだなんて誘っちゃって」
「あ、いえ!あの、むしろ私こそすみません。なんていうか、びっくりしちゃって」
「びっくり、したの?」
「え、いや、その、はい・・」
「ふふ」

先輩は微笑みながら私に問いかける。

「私ね、鎌田さんと話してみたかったんだ」
「わ、私とですか?」
「うん。鎌田さん、いつもデッサンしてる時にゾーンにはいってるじゃない?」
「え?ぞ、ゾーン?」
「うん、自分の世界っていうか。周りのものが何も見えないっていうの?
すごく集中してデッサンしてるよね。私ね、すごいなっていつも見てたの」

倉田先輩にこんなに自分の事を見られていたと思うとなんだか恥ずかしくなってくる。
それでいて、褒められていると受け取って、いいんだよね?うれしい。

「私、集中力がなくていろいろ気が散っちゃうんだ。他の人の立てた音だとか。
鎌田さんはそういうの無い?」
「無い・・かもしれないです。そういえば。とにかく目の前の絵とにらめっこし始めちゃうと」
「やっぱり。すごいなぁ、鎌田さんすごい。私尊敬しちゃうよ」
「いえいえ!そんな、あの、恐縮です・・」

今の私はたぶん耳まで真っ赤だ。こんなに先輩に褒め倒される経験、生まれて初めてだもの。

「あのね、今度二人でスケッチに行かない?実はそのお願いがしたかったの」
「スケッチ、ですか?」
「うん、鎌田さんともっとお話ししたいなって思ってるし、鎌田さんを眺めてたいの」
「ええええ、いえ、そんな、お見せするようなものじゃないですし。
でも、わ、私も一緒にスケッチしてみたいです!先輩と」
「ありがとう!じゃあ決まりね!」
「はい!」

私と倉田先輩との、ちょっと不思議な話はこうして始まった。

(続)

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